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2004.07.25

『カラー版 世界版画史』青木茂監修(共同執筆)

タイトル:『カラー版 世界版画史』
著者:青木茂監修
(青木茂、内田啓一、河野実、小勝禮子、佐川美智子、杉野秀樹、高木幸枝、滝沢恭司執筆)
出版社:美術出版社
定価:2500円
初版:2001年6月
ISBN:4-568-40060-0

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もともと、この本は以前に一度、ざーっと読んでいたのだが、思うところあって、もう一度手に取ることにした。
#とか言いながら、このテキストの最初の「下書き保存日」は、5月10日...、2ヶ月以上ほっといてどうする(汗)。
ここ1年くらい、版画、特に木版画についてずっと考えていたことがあり、それが現在ある文献類のなかで、どの程度論じられているものなのか、確認してみたかったのだ。
それは「ある時代または社会状況においての、木版画の存在意味」と「現代社会における、メディアとしての木版画の妥当性」というものだ。
いきなり、ちょっとトンデモっぽい命題で、すいませんね〜、ほんとに(苦笑)。

でも、実際に図書館で、版画に関する本を探してみるとどうだろうか。
当然というか、版画の技法本、作品集、作家評伝の書籍は、どこでもそこそこに揃っている。
しかし、版画史は美術史と同時に、印刷史ともリンクしている。
そうすると、印刷の社会的な役割や意味と同様に、木版画のそれも、時代や社会によって変化したという論じかただって可能なわけだ。
だが、こうした面から版画の歴史を論じた文献は、実は意外に少ないのだ。
そこで、この『世界版画史』であれば、時代の流れ、社会の変化と版画との関連性が、幅広い地域、時代を通じた大極的な視点から、ある程度は書かれているかな、という期待を抱きつつ、再読を思い立ったのだ。

前にもちらと書いたが、私の以前からの大きな関心事として、80年代の韓国民衆美術、特に民衆版画運動の経緯と成果を再検証してみたい、ということがある。
韓国において「民衆美術」と呼ばれるジャンルは、上記の通り、80年代の民主化運動の中で、労働者階級への効果的な情宣活動、および文化における社会階級の打破を掲げて展開された運動だ。
壁画、大型の掛け絵、絵画作品などとともに、重要な表現技法として扱われたのが「木版画」だった。
なぜ民主化運動家らが木版画を選んだのか?
それは、朝鮮半島の伝統美術として木版を再照明するとともに、木と刀と紙という、ごく日常的な道具、加えてインク(それは市民運動の現場のガリ版の部屋にあったはずだ)さえあれば、低所得の労働者にも可能な表現手段だったからだ。
基礎教育さえまともに受けられない下層労働者(80年代前半の韓国には実際にいた)に、自分達の日常や労働の苦しみ、社会へのメッセージを進んで表現させ、それを通じて労働運動に参与させるには、文章よりも絵、それも手軽でシンプルかつ、大量複製の可能な木版画が適当だとされたのだ。
大量複製が可能ということは則ち、これまで声を持っていなかった労働者自身に、木版画という「メディア」を持たせることでもある…
彼らの版画運動(=木版画)は、魯迅の「木刻運動」を大きな思想的ベースとしている。
木刻運動をご存じの方なら、上のロジック自体が、木刻運動の影響を受けていることがお分かりいただけるだろう。
実際に木刻運動では、ケーテ・コルヴィッツらヨーロッパ、ロシアの作家と作品交換をおこない、版画集として本にまとめられた。
思想・運動メディアとしての木版画、という魯迅の目標は、これらの活動によりある程度具現化されていた。
(蛇足だが、彼らの壁画運動は、メキシコ革命後のそれや、60〜70年代アメリカの市民によるそれの影響によるものである)
私が「現代社会における、メディアとしての木版画の妥当性はどうなん?」なんてことを口走るのにも、近現代のこうした版画運動にコミットしてしまったからなのだ(汗)。

いきなり話がワープ状態で恐縮だが、5月にかろうじて残しておいた読書メモ(たいそうなモノじゃないっすよ、付箋に走り書きしただけっす)を整理してみる。
当初の目的通り「(木)版画と周辺の社会環境」というコードでピックアップした。

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■第1章:版の原理と起源+中国の版画
●P18〜19
1931年、魯迅、暑期木刻講習班開催。
ソビエトの挿絵版画、カール・メッフェルト、ケーテ・コルヴィッツらからの影響。
日本から、永瀬義郎『版画を作る人へ』、料治熊太『白と黒』、神戸版画の家『HANGA』らからも影響。
革命プロパガンダ的複製木版画を試みる。
●P20
朝鮮時代、民画の発達のなかで、版画による民画表現は、肉筆画に押されて少ない。

■第3章:日本の近代—明治前半+版画運動の時代
●P38
明治期の版画...
30年前後まで、「版の絵」と称される。商業用途。木版、銅版、石版、木口木版などが使われる。
30年以降、印刷技術の発達と機械化により、商業利用よりも「作家の版へのこだわり」に重きが置かれるようになる。
●P42〜45
木口木版の利用...出版活動、新聞などの挿絵に盛んに用いられる。

■第8章:19世紀—石版画の登場+挿絵と風刺(西洋の版画)
●P142
1840〜1880年代、木口木版による挿絵印刷が盛んになる。
1880年代以降、写真印刷の発達とともに衰退。

■第9章:現代—“巨匠”の時代+工房の発展
●P136
写真製版の実用化>印刷メディアとしての版画の衰退>美術作品としての版画「版表現」に重きが置かれる。
●P139
多色刷りポスターの人気>ゴーギャン、ムンクらが版画を制作。
●P153〜156
20世紀初頭、ドイツで版画独自の表現を追求する動き
1905年「ブリュッケ」、キルヒナーらによる木版表現の復興(プリミティブアートへの関心の高まり)
運動はミュンヘンに移動、詩画集の出版が盛ん。
●P156
ドイツ、ワイマール政権下...表現主義、バウハウスによる版画制作。

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ざっと以上の記述がみつかったが、通史としてはよく扱ってくれたという感じだが、細かいところではやはり物足りない。
例えば、ロシア・アヴァンギャルド以降の、ソ連の版画(出版)表現、またプロレタリア版画運動の広がり、小野忠重の版画研究など、もっと知りたいことはあるんだが...。
まあ表現主義とかプロレタリア関係は、そっちの専門書を読むとか、時代やイズムの区切りでピックアップしていかないと難しそうだわ、私のトンデモテーマは(とほ)。

書評というより、個人メモに終始してしまい、重ねてすみません。
まあ、こういう脳味噌の運動をしてる奴もいるのね、というスタンスで感じていただければ、それでいいです(笑)。

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