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2004.05.09

『全体芸術様式スターリン』ボリス・グロイス

タイトル:『全体芸術様式スターリン』
著者:ボリス・グロイス
出版社:現代思潮新社
定価:2800円
初版:2000年7月
ISBN:4-329-00411-9

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…難しい、難しかった!!(大泣)
マルクス理論もロシア哲学もロシア文学も、スターリン〜アンドロポフ間のソ連史とかも良く知らないまま、読んでいるんだから、そりゃそうだろう。
大学で、「マル経」専門の先生がやってる「経済体制論」という授業(90年代初頭において、マル経が経営学部の科目にあるなんて、ウチの学校くらいだろと言われてたが)を、たまたま時間割の都合上取ったら、ちょうどその年、ソ連が解体してもーたし(苦笑)。

この本では、主にロシア・アヴァンギャルド芸術とスターリン体制との間にあった差異と、その根底にある共通分母をテーマとして、後半は1970年代以降「ソッツ・アート」と言われた、スターリン体制を再検証する芸術表現について描かれている。
と、大まかにはまとめられるだろうが、実際のところは、先にも書いたとおり、ソ連邦の長年のありよう、体制、経済、市民生活をリアルに知らないと、ピンと来ないところが悔しかった。
しかし、分からないなりにも(…)特に興味深かったのは、スターリン文化の歴史に対する認識の部分だ。
自分の言葉で書こうとすると絶対間違えそう(泣)なので、一部を引用させていただくと、

********************
スターリン文化はみずからを、じっさいに(括弧内略)歴史以降の文化と思いみなしており、歴史以降の文化にとって「資本主義的な環境」は張り子の虎にすぎず、それは「階級闘争の歴史」全体とともに内実を失っていたのである。
(本文P82)
********************
社会主義リアリズムにとって歴史はすでに終わったものであり、社会主義リアリズムは歴史に占めるべき一定の地位をもたない。社会主義リアリズムは逆に歴史そのものを闘技場とみなしていた。
(本文P95)
********************
「生活の建設」にかけるスターリン時代の熱情は、みずからを過去へのたんなる退行とする評価を斥ける。なぜなら、この熱情が主張するのは、未来と過去を区別すること自体意味のない絶対的な黙示録的未来だからである。
(本文P139)
********************

…つまり、スターリン体制、というかソヴィエトを貫いていた思想とは、彼ら以前の歴史はソヴィエト出現を前に既に終わっており、ソヴィエトにおける文化とは、それまでの歴史から彼らの思想に合致するものだけをサンプリングできる、「超歴史的」な文化をつくってもよい、とされているのだ。

そう考えると、教養としてマルクス理論を読んだ年代の人からはバカにされるかも知れないが、ソヴィエト社会の形成課程と、その根底にある数々の理論には、余りにも深く渾沌とした歴史があることに、改めて驚かされた。
#中学の世界地理で「コルホーズ」「ソフホーズ」だけ勉強した私の世代じゃ、そりゃ全然歯が立たないわけだ(泣)。

しかしこの本、実は88年に書かれており、この時点では著者も、まさかソ連がその数年後、あっさり解体して普通の?共和国になってしまうとは、さすがに想定外だったようだ。

ボリス・グロイスという著者だが、81年に西ドイツに亡命し、批評活動をしている人物だそうだ。
この本自体も、その視点の斬新さに、各地で話題になり、翻訳前にも日本の思想界では話題になっていたらしい。
ネットでざっと調べただけでも、いくつかの書評があがっているが、彼の理論自体については、賛否の分かれる部分も多いようだ。
#その是非を自分なりに判断できない自分の無学ぶりが、どうにももどかしいのだが…(泣)

全体的には、装幀もきれいで、翻訳文としては読みやすい方なのがありがたい。
また、巻末の人名・事項注が分かりやすく、私のようなロシア初心者には、大変助けになった。
できれば、図版類がもっと多ければ(それは原書の問題なのだろうが)、より理解しやすかったのではと思う。

いずれにしても、ロシア・アヴァンギャルド本をこれから読んで行くには、分からなかった(…)ながらも、後々でじわじわ効いてきそうな本かな、と思えるので、読んで良かったと思っている。

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Comments

もんもんいさん、こんにちは。
グロイスのこの本は、確かに難しいですね。
で、わたしがお薦めするのは、本書の訳者である亀山さんの書き下ろしで岩波新書に入っている、その名もズバリ『ロシア・アヴァンギャルド』(新赤版No.450、1996年)です。
日本人の著者が自分のことばで書いている、しかも一般向けの新書版ということで、だいぶ読みやすいと思いますよ。(もうお読みになっていらっしゃったかもしれませんが)
全体主義の極北のようなスターリニズムと、ロシア・アヴァンギャルドのモダニズムとが、実は深いところで通底しているというか、同根なのではないかという認識については、
モダニズム研究会 編『モダニズムの越境』(人文書院、2002年、ISBN4-409-04056-1)の第2分冊「権力/記憶」なども参考になる部分が多々あるかと思います。
本書は3冊セットでケース入り、5800円+税もするので、なかなか手を出しにくいのですが、今年、分冊販売できるようになるとの情報があります(研究会代表の大平さんはわたしの同僚で、実はわたしもこの研究会に混ぜてもらっていたことがあります--最終的に原稿が書けず本書には参加していませんが……(大汗))
また遊びに来ますね。ではでは。

Posted by: ShimiKen | 2004.05.25 at 02:05 PM

Shimikenさま

貴重なご助言を、本当にありがとうございます(j_j)。
亀山先生の著書は、早速探して読んでみようと思います。
モダニズム研究会のサイトも、見つけて拝読しました。
ヨーロッパだけでなく、さまざまな地域の視点から研究が進んでいるのがすごいですね。
(朝鮮半島関係の方がいなかったのが残念ですが…)
ただ韓国においても、それまで日帝圧制下の状況としてタブー視されていた、戦前の「モダン都市京城」の状況や、日本を通じてモダニズムがもたらされたこと、それによって植民都市(京城)はどうなったのか、というテーマでの研究が徐々に始まっていて、現地ではなかなか興味深い研究本も出されています。

そういえば、最近他の所で「ワイマール体制下での、バウハウスを始めとしたドイツのモダニズムは、ナチスによって排除された」とする定説も、同時代のソ連の状況と同じように、それらの同質性について見直され始めていると聞きました。
#そういえば、ナチスの正式党名も「国家<社会主義>ドイツ<労働者>党」ですしね…。
ヒトラーの「退廃芸術」の定義も、何となくスターリン主義のそれと共通項があるようにも見えますし。

『モダニズムの越境』セットは、このあたりにもいろいろと示唆を与えてくれそうです。
図書館にあるかどうか探しまくって(汗)、ぜひこちらも読んでみたいです。

Posted by: もんもんい | 2004.05.25 at 06:15 PM

モダ研に半島関係のメンバーが入っていないことは、おっしゃるとおり、たいへん遺憾なことでした。
というか、中国関係ですら手薄だった(のに原稿を「落とし」たわたしって、ほんま最低です)。
で、どなたかいないかなぁと探したようですが、結局なしということになったようです。

韓国で「モダン都市京城」の研究が始まっているとのこと。
こちらこそ、貴重な情報をどうもありがとうございます。
わたくし、最近また(!)NHKの講座で韓国語の勉強をはじめたのですが、忙しさにかまけて(とはむろん言い訳に過ぎませんが)遅々として匍匐前進という情況です。(放送にはもうついていけなくなりつつあります(汗))
韓国語(再々々々…(^^;)入門したのは、近年、韓国の(特にぼくと同世代の若手)中国文学/文化研究者の研究動向を無視できないなぁという実感があって、彼らがハングルで書く論文を読みたい、という考えからです。
ワールドカップ・サッカーのときに初めてソウルを訪れ(でも観戦でなく学会でしたが)、学会報告がほぼすべて韓国語で、なーんにも聴き取れず悔しい思いをした、ということもあります。
中国関係の学会では共通語が中国語になるので、互いに外国語である中国語で意思疎通し、それで済むと言えば済むのですが、学会のコーヒーブレイクやレセプション、あるいはオフ(っていうかアフターの飲み会ね)といった場面で、彼ら韓国人グループ(彼ら、なぜかほとんど常に集団で行動しますねぇ)が韓国語で談笑しているのに、自分だけ取り残されたようになるのがこれまた悔しい!(だって、彼らものすごく楽しそうなんですもの)

すいません。こちらこそ、元記事からズレてしまいました。

Posted by: ShimiKen | 2004.05.25 at 07:33 PM

「モダン都市京城」の研究本で有名なのは『ソウルにダンスホールを許せ』という本で、出版当初は韓国でも大変話題になりました。
こちらのページ(ラジオハングル講座テキストに連載されていた畑山先生のサイト!)
http://www1.odn.ne.jp/~cab34730/korea-rekishi.html
に、詳しい内容が載っています。
近々法政大学出版局から翻訳版が出ると聞いていますが、まだのような…(汗)

朝鮮語の学習ですが、論文を読む目的であれば、基礎文法をある程度学ばれたら、即、辞書片手に論文を読んでいくのが、一番効くと思います。
ご存じの通り、朝鮮語と日本語は漢字熟語が大部分共通しており、多分ハングルで書かれた論文でも、漢字語の部分を全部漢字に直したら、内容が殆ど分かってしまうくらいです(笑)。
たいてい、日本人が朝鮮語をある程度学ぶと、新聞や論文はすぐに読めるようになります。
そのかわり、いわゆる固有語(「縁」を「えにし」というような)はやはり覚えにくいので、学術論文は読めるのに絵本が読めないとか(笑)、「ぞうきん」や「ケヤキの木」みたいな身近なものの名前が分からないとか、ものすごく偏った語彙になってしまいます。
現地の人に言わせると、そのギャップがかなり面白いらしいですが(苦笑)。

Posted by: もんもんい | 2004.05.26 at 04:19 AM

またまた情報をありがとうございました。
なるほど、これは面白そうな本ですね。
早く翻訳、出てほしいものです。

朝鮮語学習の件も、アドバイスありがとうございます。
ちょっと前の本は、漢字がずいぶん使われていたので、邪道とはいえ、
ははーん、だいたいこういう内容だなと推測がついたのですが、
最近はハングル占有率が非常に高くなっているので……(^^;)
ともあれ、朝鮮語学習、まだ諦めていないので、低空飛行でも続けます!
では、また。
(お忙しいようですので、お返事はご放念くださいませ)

Posted by: ShimiKen | 2004.05.26 at 07:17 PM

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